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契約不適合責任を分かりやすく解説 瑕疵担保責任との違い、売主の注意点は⁉

更新日2020-07-18 (土) 23:54:39 公開日2020年7月12日

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2020年4月1日施行の改正民法で、新たに「契約不適合責任」という法律上の責任が定められ、その代わりに「瑕疵担保責任」という概念が削除されました。

私たち不動産業者も施行から約1カ月が経ち、「契約不適合責任」に対応した不動産売買契約書を用いての売買契約を取り交わしており、旧来の「瑕疵担保責任」との違いに大分馴染んでまいりました。

「契約不適合責任」とは、「契約の内容に適合しない場合の売主の責任」です。

字面を見てみると「瑕疵担保」と比べ、なんか重いイメージを受け売主にとっては責任が増えているのではと思われがちです。

しかし、ちゃんと内容を理解して不動産の売却を行えば買主とのトラブルも回避できますので変に心配したり、過剰に身構える必要はありません。

ここでは、民法がどのように改正されて、不動産売買実務上では旧来とどのように違ってきているのかを解説していきます。

★目 次★【契約不適合責任を分かりやすく解説 瑕疵担保責任との違い、売主の注意点は】


買主が請求できる範囲は、2020年3月31日までは瑕疵担保責任となり、「契約解除」と「損害賠償」の2つだけだったのに対し、2020年4月に施行された民法(債権法)改正によって契約不適合責任が制定され「追完請求」、「代金減額請求」、「催告解除」、「無催告解除」、「損害賠償請求」の5つが請求できるようになりました。


1.旧来の瑕疵担保責任

旧来の瑕疵担保責任を追及するためには、目的物(対象不動産)に「隠れたる瑕疵」がある事が必要でした。

瑕疵担保責任を追及するためには、目的物に「隠れたる瑕疵」がある事が必要でした。

「瑕疵」とは、契約時に契約の趣旨に適合する通常有すべき性状・性能を有しない事を意味し、「隠れたる」とは契約当時、買主が瑕疵の存在について知らず、知らないことに過失がない事とされてきました。

例えば、建物に雨漏りなどの瑕疵があっても、それを買主が知っていれば(売主が告知していれば)隠れたる瑕疵に該当しないので、当該雨漏りに関して売主は瑕疵担保責任を負う必要はありません。

【4つの瑕疵】

先ほどの雨漏りは「物理的瑕疵」に該当しますが、他にも「法律的瑕疵」「心理的瑕疵」「環境的瑕疵」があります。

具体的には

「物理的瑕疵」:雨漏り・シロアリの害・木部の腐食・土壌汚染・地中障害物など
「法律的瑕疵」:接道義務を満たしていない再建築不可物件など
「心理的瑕疵」:自殺や殺人事件、火災など事故・事件のあった物件
「環境的瑕疵」:反社会的勢力の事務所・葬儀場・ゴミ処理場などの嫌悪施設が近くにある

以上のような物件の場合は、買主が瑕疵の存在を知らなかった場合は売主は瑕疵担保責任を負わなければなりません。

【瑕疵担保責任負担期間】

旧民法の規定では、買主が瑕疵担保責任を追及できるのが「発見後1年間」となっているため、そのまま当てはめると売主の負担が重くなり過ぎてしまいます。

そのため、実務上は「発見」ではなく「引渡」を起算点とし、「引渡後○ヶ月」と責任期間を限定するのが一般的です。

通常、個人が売主の場合には、瑕疵担責任の期間を「引渡後3ヶ月」と定める事が多いです。
また、個人が売主の場合、買主が合意すれば、売主は瑕疵担保責任を一切負わないとする事も可能です。

瑕疵担保責任を一切負わない場合を、全部免責と呼びます。

このように個人が売主の場合には、瑕疵担保責任の一部免責や全部免責は有効です。

ただし、売主が宅地建物取引業者(不動産業者)の場合、「引渡から2年以上」とする特約を除いて、民法の規定より買主に不利な特約をする事が出来ないようになっています。
そのため、売主が宅地建物取引業者の場合は瑕疵担保責任期間が2年となっていることが通常です。

尚、個人が売主の場合、瑕疵担保責任を免責したとしても、売主が瑕疵の存在を知っていながら買主に告知しなかった場合には、売主は当該瑕疵につき担保責任を免れる事ができません。

従って、旧民法では、売主は自分の知っている瑕疵は全て買主へ伝える必要があります。

【瑕疵担保の請求範囲】

上記のように旧民法の規定では「発見後1年間」と規定されておりますが、不動産売買の実務上、売主が個人の場合は「引渡から3ケ月」、売主が宅地建物取引業者(不動産業者)の場合は「引渡から2年間」と定めることが一般的です。

では、瑕疵が発見された場合はどのような請求ができるのでしょうか。

旧民法では買主が請求できる権利は、「損害賠償」と「契約解除」の2つです。瑕疵補修請求権は認められていません。
買主が瑕疵の存在により損害を受けた場合は、「損害賠償」を請求でき、もし、契約の目的が達成できないときは契約を解除することができます。

しかし、不動産売買契の実務上では修補請求を追加しているのが一般的です。

引渡した後に雨漏りが発見された場合は、売主に負担で修補してくださいと買主は請求できるのです。

【旧来の瑕疵担保責任 まとめ】

旧民法では、売主の瑕疵担保責任は「発見後1年以内」に請求を受けたもの、請求できる内容は「損害賠償」もしくは「(契約の目的が達成できない場合は)契約解除」のいずれかとなります。

しかし、瑕疵担保責任は契約書に別の定めをすれば、その定めを優先して適用することができる「任意規定」となっております。

任意規定なので、「引渡から3カ月以内」としたり、「瑕疵担保責任免責」としたり、「修補請求」も可能と定めることができるのです。

では、民法が改正され売主の「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」と変わりました。
「契約不適合責任」では具体的にどのように変わっているのでしょうか。

改正法の内容 (1)

次の章で解説していきます。

2.契約不適合責任

契約不適合責任では、売主が契約内容と異なるものを売却した時に、買主は「追完請求」、「代金減額請求」、「損害賠償請求」、「催告解除」、「無催告解除」の5つの請求ができるようになりました。

目的物に欠陥がある場合における担保責任の内容 (1)

ここではそれぞれについて簡単に解説していきます。

追完請求

引渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができます。

例えば、パソコンを10台購入したけど、その内の1台が壊れていたため、新たに新品や同程度の別機種との交換、または修理を求めることができます。

ではパソコンを不動産に置き換えて考えると、

不動産はまったく同じ物件は存在しません。よって代替物は用意できません。
雨漏りが発生したからと言って、代わりの家と交換することができませんので主に追完請求は修補の請求となってきます。

ただし、売主は買主に不相当な負担を課すものではないときは、買主が請求した方法と異なる方法での履行の追完をすることが可能とされています。

つまり、売主に選択肢があるということです。
また、契約内容の不適合が買主のせいで生じたときは、買主は売主に対して追完請求ができないとされています。

代金減額請求

代金減額請求権は契約不適合責任として上記の追完義務を催告したのにも関わらず、あるいは売主が追完拒絶の意思表示を明確にしている場合に「代金を減額してください」と言える権利であることがポイントです。

いくら減額されるのかは、「不適合の程度に応じて」ということになります。

先ほどの「追完請求」で雨漏りの修補を請求したにも拘わらず、売主が応じてくれなければ、「じゃあ売買代金を安くしてくれ」と請求できるのです。

契約不適合責任免責

不動産売買の実務では、売主はより一層売却する不動産の状態を把握して、その状態を契約内容に反映させる必要がでてきました。

とはいえ、瑕疵担保責任と同様に契約不適合責任も任意規定とされています。
一応民法では決まっているけど、売主・買主合意の上で契約書に別の定めをすれば、その定めを優先して適用することができます。

例えば、

「設備については契約不適合責任を負わない」
「買主からは追完請求および代金減額請求に限り請求できるものとして、損害賠償請求、契約の解除はできない」
というように定めておけば、民法の規定より優先されることになります。

なお、買主が売主に請求できる期限につきましては「買主はその不適合を知った時から1年以内に売主に通知しなければならない」こととしています。

ただし、こちらも任意規定となりますので、瑕疵担保責任と同様に買主が売主に対して請求できる期限を変更することも可能です。

無催告解除

契約の内容に適合しないこと(契約不適合)で、契約の目的を達成できないときは無催告解除ができます。こちらは、目的を達成できないときに限り行使される権利になるため、多少の不具合で補修できる場合は認められないものになります。

催告解除

売主、買主は、その相手方が本契約にかかる債務の履行を遅滞したとき、その相手方に対し、相当の期間を定めて債務の履行を催告したうえで、その期間内に履行がないときは、本契約を解除することができます。

なお、第13条第1項の契約不適合について売主が同条第2項の修補を遅滞した場合を含めます。

3.瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い

大きく変わった点は三つです。

契約不適合責任では、売主は買主に対して、売買の対象物件について「種類・品質・数量」に関して、契約の内容と適合した物件の引渡す義務があるとう前提となっています。

もし、それらについて契約の内容に適合していない物件を引渡した場合は、売主は債務不履行責任になるということです。

例えば、雨漏りやシロアリの害などや木部の腐食のある建物を引渡した場合は、品質に関して契約の内容に適合した目的物を引渡す義務の債務不履行となるのです。

前項の契約不適合物件の場合、買主は売主に対して、「雨漏り直してね(追完請求)」ができるようになり、「直さないんだったら代金安くしてね(代金減額請求)」ができるようになりました。

瑕疵担保責任は「隠れたる瑕疵」について売主の責任を問われました。

しかし契約不適合責任では「隠れていようが」「隠れていまいが」そんなのは関係ありません。

売主も買主も雨漏りを認識して「隠れていない状態」であっても、売主は契約不適合責任を負わなくてはいけません。

例えば、買主が家を内覧しに来た時に大雨が降っていて、雨漏りが発生して買主が雨漏りする物件であると認識しても売主の責任は免れないのです。

4.実務上の不動産売買契約書

売主が個人の中古一戸建てにつきましては、公益社団法人全日本不動産協会が使っている売買契約書では、以下のような内容で契約不適合責任を定めております。

以下、公益社団法人全日本不動産協会の不動産売買契約書約款より抜粋しています。

契約不適合による修補請求等


売主は、買主に対し、引渡された土地および建物が品質に関して契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」といいます。)であるときは、引渡完了日から3ヶ月以内(※1)に通知を受けたものにかぎり、契約不適合責任を負います。ただし、建物については次の場合のみ責任を負います。

①雨水の浸入を防止する部分の雨漏り
②建物の構造耐力上主要な部分の腐食
③シロアリの害
④給排水管(敷地内埋設給排水管を含みます。)・排水桝の故障

売主が、買主に対し負う前項の契約不適合責任の内容は、修補にかぎるものとし、買主は、売主に対し、前項の契約不適合について、修補の請求以外に、本契約の無効の主張、本契約の解除、売買代金の減額請求および損害賠償の請求をすることは出来ません。

ただし、前項の土地の契約不適合により本契約を締結した目的が達せられないときは、買主は、売主に対し、本契約を解除することが出来ます。

買主は、売主に対し、本物件について第1項の契約不適合を発見したとき、すみやかに通知して、修補に急を要する場合を除いて立会う機会を与えなければなりません。

売主は、買主に対し、本契約締結時に第1項の契約不適合を知らなくても、本条の責任を負いますが、買主が本契約締結時に第1項の契約不適合を知っていたときは、売主は本条の責任を負いません。

売主の瑕疵担保責任に関する見直し (1)

私ども不動産会社が使っている売買契約書ではこのような条文となっております。民法で定める「契約不適合責任」をそのまま運用してしまうと、かなり売主にとっての負担が多くなりますので、建物における重要な部分のみについて売主が責任を負い、設備などは責任を負わないという内容となっています。

また、買主からの請求は修補に限るとしております。「雨漏りしているから直してくれ」と請求はできますが、「雨漏りしているから代金安くしてよ」「雨漏りしているから契約解除する」という請求は出来ません。

なお、修補の請求を行っても売主が応じない場合は債務不履行として契約を解除出来ます。売買契約書の条文では以下のように記載されます。

※1売買契約についての契約不適合責任の時効

買主は「不具合を知ったときから1年以内」に不具合の内容を売主に通知することが必要になります(改正民法第566条)が、ただし、会社間の売買等は、商法第526条2項が適用され、売主は買主に対し、商品引渡し後6か月以内に不具合の内容を通知することが必要です。
なお、上記の民法や商法の規定はあくまで契約書に行使期限の記載がない場合のルールを定めたものであり、契約書で行使期限をより短く設定することや長く設定する事が可能となります。


5.不動産の原状確認には「インスペクション」が意味を持つ

契約不適合責任は、従来の瑕疵担保責任と違い売り主がどれくらい物件現状を把握できているかが重要となります。
しかし、売主自身が雨漏りやシロアリなどれ表層に見えない部分まで、物件の詳細状況を把握するのは難しいと考えられます。
中古住宅の床下や屋根まわりなど日常でも目の届かない場所(隠れて見えない場所)は、容易にチェックできるものではないのですから。
ただ、新設された契約不適合責任は「隠れていたかどうか」は問われません。
ゆえに専門家による「インスペクション(建物状況調査)」の重要性がクローズアップされてきます。

インスペクションとは、ホームインスペクター(住宅診断士)が建物の柱や基礎、壁、屋根、構造体の強度や雨水の浸入が起きていないか、危険性がないかなどを判断する調査です。

国土交通省は2017年より「既存住宅状況調査方法基準(平成29年度国土交通省告示第81号)」を公示し、積極的に既存住宅流通市場の活性化を推進しています。
ただ、不動産業界はこのインスペクションの活用をなかなか現場に取り入れる事は無く、また、売主認知もなかなか進まない現状がありました。
しかし、今回の契約不適合責任への移行でこの状況が一変する可能性があります。

従来の中古住宅へのレッテル(中古住宅は安心性に劣る)を払しょくし、売主・買主ともに安心して取引できるよう、インスペクションの活用をすることで、売買の目的物の信頼性は高まりのですから。

6.まとめ

新民法の契約不適合責任では、「隠れていたかどうか」は問われません。

契約不適合責任で争点になるのは「隠れていたかどうか」という問題ではなく、契約書に「書かれていたかどうか」が問題となるのです。

今後の売買契約で重要なことは、売買の目的物の現状を把握し、その内容を契約書等にしっかり記載することです。
瑕疵があったこと自体ではなく、「契約書等に記載されているか」がポイントです。

目的物になんらかの不備があったときには、どのような不備があり、その不備に対して責任は負わない旨を契約書に詳細に記載することが求められます。

売り主は、契約書はもちろん、その他の添付資料等にもすみずみまで目を通し、売買の目的物の現況を細かく記載することが大切です。

また、売買の手続きは不動産会社に任せているからと契約内容のチェックを怠らないようにしましょう。

特に中古物件(既存住宅)の場合は、新品同様、キズ一つないピカピカな状態で引渡すことは不可能です。大事なのは物件の状態を売買契約書に反映させることです。

また実務上の不動産売買契約書では売主の負担義務の範囲が「雨漏り」「主要な部分の腐食」「シロアリ」「給排水管」と最低限の範囲で定められておりますが、買主に安心して購入してもらうためにも、きちんと設備の状況など包み隠さずに伝えるような誠意のある対応が将来的なトラブルを防止することになります。