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不動産売買契約書をチェック!【宅地建物取引士が解説する基本中の基本】

更新日2020-06-12 (金) 23:51:08 公開日2020年2月20日

私たちは日々の生活の中で特別に意識はしていませんが、様々な法律行為を行っております。
例えば、スーパーで野菜を買ったり、飲食店で食事をしたり、「買う」という「申込」に対して「売る」という「承諾」を行えば契約が成立します。
このように売買を行う契約は法律行為となりますが、お互いの意思の合致により売買契約は成立します。
契約書を作成していなくても、署名や押印をしていなくても、日常生活で無意識のうちに様々な契約が成立しているといえます。
また、
Aさん「俺の車50万円で買わない?」
Bさん「うん、いいよ。」
という口約束でもAさんBさんの間で売買契約は成立します。

しかし、高額な買い物をする時には後々のトラブルを避けるためにも契約の内容を明確にして、書面にしておくのが良いでしょう。
特に不動産売買の場合は、売買価格以外にも引渡の時期、違約した場合の取決めなど、定めておいたほうがよい項目がいくつもあります。
そこで、契約の成立を証明するために「契約書」が必要になるのです。
また、「そんなこと言ってないよ」とどちらかが言ってしまったら身も蓋もありません。
トラブルになった場合には契約成立を証明するものがなければ相手方への請求も困難になります。
契約書はトラブルになった場合のみならず、契約当事者が互いの債権債務の内容を書面で確認することができる点でも有用です。

前置きが長くなりましたが、『不動産売買契約書』を不動産売買の仲介業20年のスタッフがマニアックに読み解いてみます。

★目 次★不動産売買契約書をチェック!【宅地建物取引士が解説する基本中の基本】


この記事を書いた人

石井雄二

石井雄二 宅地建物取引士・不動産売買全般を経験したコンサルタント

不動産売買専門仲介会社のコーラル㈱取締役として不動産売買や親族間売買に日夜尽力しています。
親族間売買のスペシャリストとして既に多数の案件を成約に導いています。
不動産売買契約書はもういくつも作成してきたスペシャリストの域になるでしょうか。
2級ファイナンシャルプランニング技能士、YUIKA千葉支部長


【不動産の表示】:マニアックレベル★ 

不動産売買契約書の中で最も先頭にある重要な各記載事項が、この対象不動産の表示です。

売買対象となる不動産がどこにあるのか、広さはどれくらいあるのか、建物の構造がどうなっているのか、などが記載されています。

仲介業者として不動産の表示を買主様・売主様と読み合わせしていくと、「おやっ???」という点が二つでてきます。

住所が2つって、どうして⁉⁉

まず、一つ目の「おやっ?」という点。

売主Aさん:「俺んちの住所は港区赤坂1丁目2番3号だけど、契約書に書いてある所在地は港区赤坂1丁目1234番地56になっているよ。」「所在地の記載が間違ってんじゃないの?」と。

不動産売買の場合は、対象不動産は住居表示ではなく地番で表示します。
これは、外観上は一つに見える土地でも登記上は数個に分かれていたりしますし、道路にも所有者がいるので、1丁目2番3号などの住居表示では表しきれないので、地番で表示する方法を採用しているのです。

つづいて二つ目の「おやっ?」。

お部屋が在るのは1階じゃないよ!(マンションの場合)

マンションの場合、『一棟の建物の表示』と『専有部分の建物の表示』の両方を記載しますが、専有部分の構造は「鉄筋コンクリート造1階建」などと表示されます。
ここで、売主様・買主様から「おやっ?、このマンション10階建てじゃないの」と。

確かに10階建てのマンションの場合は、『一棟の建物の表示』で「構造は鉄筋コンクリート造陸屋根10階建」となりますが、例えば301号室というお部屋は室内に階段があるわけでは無いので『専有部分の建物の表示』は「1階建」となるのです。
室内に階段があるメゾネットタイプだと「2階建」となりますね。

ちなみにマンションの場合は、不動産売買契約書に記載される床面積とパンフレットなどに記載される床面積が異なっていることがほとんどです。
建築基準法では壁芯面積で床面積を算出するのに対して、登記の際の面積は内法で面積を算出するのでパンフレットと登記面積が違ってくるのです。

内法と壁芯の説明はマニアックレベル1にも満たないので割愛します。

余談ですが、この漢字読めますか?

内法 ・ 法面 ‣ 納屋 ・ 金消



私が不動産売買契約書もまだ作成したこともない、不動産業界に足を踏み入れたド新人の頃、「法面」を何の疑いもなく「ほうめん」と読んでいて、その時のお客様も不動産の知識がない方だったので「ふーん」と聞き流していたのですが、同行していた先輩から
「ばか、それは『のりめん』って読むんだよ。酒井のりピーの『のり』だよ。」と。

これまた新人の頃の話ですが、スケジュールボードに先輩方が『金消』と記載して出ていくのを見て、「『かねけし』さんという変わった名字のお客さんが多いな」と。
これは金銭消費貸借契約(金消契約:お金を借りるための契約)の略だったのですが、もちろん『かねけし』とは読みません。
今思えば20年近く前の、遠い昔の、初々しかったころの話です。

という訳で『内法』は『のりピー』を応用してすんなり『うちのり』と読むことができました。『ないほう』などと読んだことは一度もありません(多分)。

で、苦戦したのが『納屋』です。重要事項説明の中で「建築基準法第22条」について説明する時に『納屋』がでてくるのですが、何度読んでも『なんや』と発音していました。
正解は『なや』ですが、「この都会でどこに『納屋』があるんじゃい」と馴染みのない物体であったことと、『納戸(なんど)』→『納屋(なんや)』と変な連想が働いていたのが影響していたのかと思います。

【公租公課の起算日】マニアックレベル★★

公租公課(こうそこうか)とはあまり馴染みのない言葉だと思いますが、不動産売買契約書の中では必ずでてきて、固定資産税・都市計画税(以下固都税)の事を指しています。

ここで、固都税について少し触れておきます。

固都税は、1月1日に不動産を所有している方に課税される税金となります。

不動産の固定資産税評価額によって税額が算出されますので、都心の一等地などではとっても税金が高く、田舎の方にいくほど安くなるのが一般的です。また、同じ土地でも土地上に建物があるのかないのかによっても税額が変わってきます。

さて不動産の売買により所有権が移転する時は、所有権移転の日をもって固都税の清算を売主・買主間で行います。前述しましたように1月1日に所有している方に課税されるので、納税義務者も1月1日に所有している方となります。年間の税額12万円だった場合、12万円の税金を納付するのは売主となります。ただ、「7月1日に所有権移転したんだから7月1日以降の分は買主さん負担してね」という理由で固都税の日割清算を行います。

ここで出てくるのが『起算日』です。

起算日には「1月1日」とする場合と「4月1日」とする場合があります。

関東では1月1日、関西では4月1日としているのが主流となっております。なぜ、関東と関西で違うのかは分かりません。「慣例」だとしか言いようがありません。また、「東北はどうなの?」と質問されても分かりません。
ただ、起算日を1月とするのか4月とするのかによって、清算する金額が異なってきますので、売買契約を締結する際は起算日がいつなのかを確認しておきましょう。

【収入印紙】マニアックレベル★★

不動産売買契約書には収入印紙を貼ります。

「んじゃ、契約の時に1万円の収入印紙持ってきてくださいね。郵便局で売ってますよ。」と売買契約の当事者である売主様・買主様は何の疑いもなく「はーい。持っていきますね。」と答えてくれます。

他にも仲介業者が発行する仲介手数料の領収書にも印紙をはります。

買主様が銀行からお金を借りる時の金消契約の契約書にも印紙をはります。
これらは全て課税文書となっているからです。

「郵便局で収入印紙を購入して、売買契約書に貼付する」という行為は納税しているという意識はないかもしれませんが、これもりっぱな納税です。
印紙税法により定められた書類には、印紙を貼ることにより税金を納めなさいとなっております。

「ハッ??????? 何で個人同士、民間同士の契約で税金納めなきゃなんないの?」
「御上が手間暇かけて契約書を作ってくれるの?」
と、印紙税法に憤りを感じている方がいるのかいないのかは分かりませんが、私は常々不満に思っております。
「『簡単に』、『シレッと』、『納税を意識させることなく』税金を取れる所はとってしまえ」的な感じがしてとっても嫌な感じです。

特に国会議員や役人などが不祥事を起こした直後に売買契約がある時には、
「印紙は税金ですけど、納税するのバカらしいですよね。」と買主さん・売主さんに同意を求めてしまいます。

買主Aさん「実は私こうむいんなんですぅ。。。。」

なんてこともありましたが・・・

ちなみに、通常、不動産売買契約書は原本を2部作成して、売主・買主各々が印紙を貼って各々が1部づつ保管します。
ただ、「私はコピーでいいですよ」という場合は、原本を1部作成して印紙代を売主・買主で折半したり、原本を保管する側だけが印紙代を負担するやり方もあります。

【手付金】マニアックレベル★★★

一般的な売買契約書の条項には

「1.買主は売主に対し、手付金を本契約締結と同時に支払います。」

「2.売主および買主は手付金を残代金支払いの時に売買代金の一部に無利息にて充当します。」

という文言が記載されています。

一見なにげない文言ですが、掘り下げてみると「無利息にて」というところが気になりますね。
もし「無利息にて」という文言が入っていなければ、手付金支払い時(売買契約締結時)から残代金支払日(物件引渡し時)まで、売主が買主から「預かっているお金」となりますので、利息が付いてしまうのです。
1000万円の物件で、手付金100万円、残金決済までの間に預けた手付金に利息が10円つきました。じゃ、残代金は8,999,990円ね。というのは現実的ではありません。

また、万が一、ローン特約により白紙解除となってしまった場合、売主は預かっていた100万円を買主に返却しなければなりません。「100万円を返却する際に利息付けて返してね」というのも現実的ではありませんし、手付金を預かっていた売主にとってはたまったものではありません。

なお、不動産売買契約における「手付金」は「解約手付」という意味合いを持ちます。
ある一定期間迄であれば、買主は「手付を放棄して」契約を解除する事ができます。
反対に、売主は「手付の倍返し(手付金を買主に返金して、手付金と同額の金銭を買主に払う)」で契約を解除する事ができます。

手付解除(手付放棄・手付倍返し)は不動産売買契約書の契約条項に記載されております。

ここで余談・・・。

数年前、契約に現れたのは「じぇじぇじぇ」が口癖の愉快な売主Aさん。(既にあまちゃんブームは去っています。)

契約条項である手付解除の説明をしている時に、

愉快な売主Aさん「(私が解約する時は)倍返しだ!!!」と。(当然大ヒットドラマ半沢直樹のブームも去っています)

絶対言うだろうなと思っておりましたが案の定・・・。
お陰で緊張感のある契約の場が和みました。買主さんは苦笑いしてましたが。

【所有権の移転時期】マニアックレベル★★★

売買契約書の条項には、いつ所有権を移転するのかが以下のように記載されています。

「本物件の所有権は買主が売主に対し売買代金の全額を支払い、買主が受領した時に売主から買主に移転します。」

要は、代金の全額が授受されたときに所有権が移転するという事です。
ごく当たり前な事のようですが、民法と照らし合わせてみると、なるほどそういう意味かと合点が行きます。

『民法の原則』

民法では、所有権を含む物件の設定や移転は、「当事者の意思表示のみによって」行うことができると規定されています。
冒頭の「おれの車50万円で買わない?」「うん、いいよ。」とお互いが意思表示をして合意すれば契約が成立し、同時に売主から買主に所有権が移転するのが原則です。

ということは、不動産の売買契約に置き換えて「民法の原則」を適用してしまうと、契約が成立した時に所有権の移転が発生してしまうのです。
契約締結時に手付金だけしか受領しておらず、もちろん残代金の数千万円は受領していないにもかかわらず、所有権移転となってしまうのです。
これでは問題が発生してくることが容易に予見できますので、わざわざ売買契約書の条項に「買主が代金の全額を支払って、売主が受領した時に所有権を移転する」と記載しているのです。

【引渡し完了前の滅失・毀損】マニアックレベル★★★★★

もし、売買契約締結後に天災地変(地震や台風などによる建物倒壊、あるいは隣家の失火により建物が焼失)などで、不動産が滅失(なくなる)毀損(傷つく)した場合はどうなるのかを取り決めています。要は「危険負担」のリスクをどちらが負うのかという事です。

一般的な売買契約書の条項では

「1.売主および買主は、本物件の引渡し完了前に天災地変、その他売主ないしは買主のいずれの責にも帰すことができない事由により、本物件が滅失または毀損して本契約の履行が不可能となったとき、互いに正面により通知して、本契約を解除することができます。ただし、本物件の修復が可能なとき、売主は、買主に対し、その責任と負担において本物件を修復して引渡します。」

「2.選考により本契約が解除されたとき、売主は、買主に対し、受領済みの金員を無利息にてすみやかに返還します。」

と記載されています。

要は、「地震で建物が倒壊しちゃったら白紙解除ね。その時は支払ったお金を返してね。」という事ですが、これもごく当たり前な事のように感じます。

しかし民法上では、

不動産のような特定物の売買における危険負担について、契約を締結した後は買主がこれを負担することになっています。これを法律用語で「危険負担債権者主義」といいますが、リスクを負担するのは買主ということです。
つまり、買主は地震によって物件が消滅してしまい、引渡しを受けることができなくても、代金の支払いという債務は消滅しないのです。
「地震で建物無くなっちゃったけど、お金は払ってね。」という事です。

このように書いていくと「なんか民法ヤバくね」的な感じがしますね。
不動産売買の危険負担においても民法の規定をそのまま反映させてしまうと、とんでもないことが生じてしまいます。
そこで、実際の取引においては、先ほどの条文のように「地震で建物なくなっちゃったら白紙解除ね。」と定めています。

以上、今回は不動産売買の営業歴20年近くのスタッフが「不動産売買契約書」を読み解いてみました。
契約書に書かれている条項は空で暗唱できるくらい、何百回も契約書締結の場に立ち合い、何百回と契約書を読んできましたが、意識しながら読んでみると結構奥が深い書類だなと感じます。

最近は、個人間売買や親族間売買など、不動産仲介業者を介さないで当事者だけで売買契約を締結している方も増えてきているようです。

今では契約書のひな型などインターネットを通じれば簡単に入手出来てしまいますので、個人間売買なども容易に行えるのですが、万が一、契約当事者の一方(売主もしくは買主)に多少の知識と悪意があった場合、一方に不利な契約書が作成されてしまうかもしれません。

不動産売買は高額な取引となりますので、まずは専門家に問い合わせいただくことをお勧めいたします。

不動産売買契約書の記載事項

不動産売買契約書を不動産業者(宅地建物取引業者)が仲介者として作成する場合は、以下の事項を記載します。
この記載事項には、必ず記載しなければならない必要的記載事項と、取決めのある場合にだけ記載する任意的記載事項があります。

必要的記載事項

必要的記載事項は、必ず記載しなければなりません。

①.売買当事者の氏名や住所
②.物件の特定に必要な表示(売買される物件の所在地や建物の構造等)
③.土地・建物の面積
④.売買の目的物と売買代金
⑤.手付金の額
⑥.売買時は代金、交換時は交換差金の支払い方法と決済の日時

任意的記載事項

任意的記載事項は記載してもしなくても任意なのではなく、定めがあれば必ず記載します。

⑦.代金、交換差金に関する金銭の貸借のあっせんが不成立のときの措置
⑧.移転登記申請時期・物件の引き渡し時期
⑨.抵当権等の抹消
⑩.売買代金以外の金銭の授受があるとき(公租公課の清算等)はその額と支払い時期
⑪.手付解除、契約解除について定めの内容
⑫.損害賠償額の予定、違約金の定めの内容
⑬.天災その他不可抗力のよる損害の負担(=危険負担)に関する定めの内容
⑭.瑕疵担保責任の定めの内容、保証保険契約等の措置の内容
⑮.建物状況調査(インスペクション)について当事者双方が確認した事項
⑯.特約条項があるときはその内容

不動産業者は宅地建物取引業法に則り、契約成立後に遅滞なく売買当事者に契約内容記載書面(37条書面)を交付する事になっています。
不動産売買契約書はこの37条書面を補完している場合が有り、不動産取引においてかなり重要な位置を占める書類なのです。

不動産売買契約書・まとめ

ここでは、不動産売買契約時の書面【不動産売買契約書】について、基本的な個所から少々マニアックな部分までを解説してみました。

日常生活時には使用しないような用語が不動産売買契約書には用いられています。
もし売買契約書を取り交わすことがあるときは、分からない部分が出てきたら、わかったふりをせず、その都度質問して納得いくようにしましょう。

不動産売買契約書の内容を理解できないまま署名押印してしまって、後に、それは知らなかったでは済まされません。

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