相続法改正 損する人! 得する人!
更新日2020-07-11 (土) 22:13:05 公開日2019年4月4日
相続法が大きく改正されました。
しかし、この改正には落とし穴がたくさんあります。
改正のポイントは配偶者、特に「妻」の保護です。
夫の死後、妻は残された自宅に配偶者居住権を設定できます。
また、養父を介護した嫁にも貢献した分の請求権が認められます。
しかし、いずれも、メリット・デメリットはケースバイケースです。
対応を誤れば、損する人が続出するかもしれません。
では、どうすれば、その落とし穴を回避できるでしょうか。
反対に、どうすれば得する相続ができるでしょうか。
🌸「配偶者居住権」で損をする人
✿配偶者居住権とは
簡単に説明すると、相続が発生した時に、被相続人(亡くなった方)の所有する不動産の居住権を配偶者が獲得できるという権利です。
相続法大改正の最大の目玉になります。
改正前は、夫が亡くなって妻が自宅を相続した場合、それだけで法定相続分の2分の1を超えてしまい、妻の手元に現金が一切残らないという問題がありました。
▶「配偶者居住権」の具体例
(例)
夫が亡くなった時の遺産
・評価額6,000万円の一戸建ての自宅
・預貯金4,000万円
・別居する長男と長女がいるため遺産分割の対象となる相続人は3人
まず、妻は遺産の2分の1(5,000万円分)を相続できます。
妻が、自宅にそのまま住みたいということで、評価額6,000万円の自宅所有権を相続する場合、それだけで法定相続分の5,000万円を超えてしまうため、子供2人に対し1.000万円の現金を用意することになります。
あるいは、自宅を売却することで現金を分ける方法がありますが、この場合、妻は住む家がなくなってしまいます。
このような問題を解消するために創設されたのが、「配偶者居住権」です。
配偶者居住権があれば、子供が自宅を相続しても、妻は一生、自宅に住み続けられます。
また、居住権の評価額が3,000万円であれば、残りの法定相続分の2,000万円分は現金を妻の手元に残せることになります。
この結果、長男と長女には所有権の半分ずつと、それぞれ1,000万円の現金がわたることになります。
▶「配偶者居住権」の落とし穴
自宅も現金も妻に残せるということで、この新制度は非常に良いもののように思えます。
しかし、必ずしも、得をするというわけではありません。
安易に居住権に飛びつけば、妻の年齢が若い人ほど損をしてしまう可能性があります。
法務省の簡易評価法によれば、自宅に長く住むほど価値が上がります。
このことから、残された妻の年齢が若い人ほど、居住権の評価は高くなり、高齢になれば安くなるということになります。
仮に、妻が50歳くらいで未亡人になり配偶者居住権を設定したとしても、手元に残る現金は少なくなり、80歳で設定した場合は、多くなるということです。
居住権は、譲渡することも売却することもできません。
居住権を選択して住む家は確保できますが、妻が若い場合は、残りの長い人生を少ない現金で暮らすことになります。
自宅にずっと住むのであれば問題ありませんが、もし、自宅を売却して現金を得ることで、新生活を手に入れたいという考えがある場合は、居住権の選択はおすすめできないことになります。
年齢の基準は、おおよそ65才前後が分岐点と考えられます。
65才未満であれば所有権
65歳以上であれば居住権
🌸「配偶者居住権」で得をする人
▶最も得をする人
配偶者居住権を設定して、最も得をするのは、子供と同居している70代以上の方です。
相続税を考えると、子供が得る自宅の所有権は、小規模宅地特例が適用され、金融資産で受け取るより、税額が減免される可能性があります。
ただこの場合、残念ながら悲しい現実があります。
子供が親を家から追い出すという事例は珍しい話ではありません。
また、嫁・姑問題がこじれ、姑が追い出されると言う例もたくさんあります。
しかし、このようにトラブルになりそうな場合も、配偶者居住権のメリットがあります。
居住権を設定しておけば、法的に住み続けることが保証されるということです。
▶二次相続により得する人
✿一時相続・二次相続とは
両親のうち、父が亡くなった時に通常の遺産相続を行うことを(一次相続)
一次相続を行った後に、残された母も亡くなり子供だけで母の相続を行うことを(二次相続)
と言います。
二次相続の場合、配偶者居住権により税額が減り、子供が得をする可能性があります。
なぜ得をすることになるのか?
配偶者居住権は、妻が亡くなれば消滅します。
そのため、子供への二次相続は、妻の金融資産のみとなり、相続税が減額されるのです。
相続額にもよりますが、妻の居住権で子も得をする可能性があります。
🌸配偶者居住権と生前贈与はどちらが得か?
今回の法改正で配偶者居住権に並んで柱となるのが生前贈与です。
(改正前)
夫が妻に自宅の生前贈与をすると、遺産の先渡しと見なされていました。
(改正後)
婚姻期間20年以上である妻への生前贈与は遺産分割の対象から外れます。
たとえば、妻が60歳だった場合、まだ長い寿命があります。
「家をいつでも売れる選択肢を残してあげたい」と夫が思うのであれば、生前贈与を選ぶのも一つの考え方です。
評価額6,000万円の自宅を生前贈与して夫が亡くなった場合、相続時の夫の資産は金融資産4,000万円として計算されます。
妻は自宅所有権(6,000万円分)と金融資産(2,000万円)を相続して、自宅と生活資金を確保することができます。
「広い家に住み続けるには掃除も大変なので手頃なマンションに移ろうか…」など、残された妻が若い場合、年齢とともに状況が変化しやすくなります。
居住権で縛られるより、所有権で選択肢を広げておくことも損をしない相続のポイントと言えます。
生前贈与は、所有権を妻に渡せるうえ、生活費も残せる有効な手段です。
妻が60歳以下なら生前贈与が得をする可能性があります。
ただし、生前贈与は、配偶者居住権に比べると、二次相続時の税額が上がる場合も多く、さらに贈与されたのが後妻であれば、前妻の子供とのトラブルが起こりやすいため注意が必要です
🌸生前贈与より遺言書
生前贈与以外にも、遺言で自宅を妻に譲る旨を示すことで、生前贈与と同様に自宅の所有権を妻に渡すことが可能です。
生前贈与の場合、贈与税の特例で2,000万円まで非課税枠が使えます。
一方、相続の場合は、配偶者控除が1億6,000万円まで適用できます。
自宅の価値が2,000万円以下であれば生前贈与は有効ですが、相続に比べて諸費用が高い為、一般的には遺言による妻への相続のほうが得する可能性があります。
▶遺言書の書き方
民法で決まった最低限の遺産の取り分(遺留分)を無視し、偏った遺言書があった場合には、不利益を被った側が遺留分の金銭を請求することができます。
このような例は、いずれも相続争いで顕在化するケースに多く発生します。
泥沼の骨肉の争いは損をする可能性が大きいと言えます。
家族全員が損をしないために、大事なことは、適切な「遺言」を残すことです。
今回の改正で、多くの人にメリットがあるのは、遺言書の作成が手軽になり、かつ法務居に遺言書を保管できるようになることです。
自筆証書遺言において、財産目録の作成様式が変わります。
たとえば、財産目録をパソコンで作成したり、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書などを目録として添付したりできるようになります。
これまでは膨大になりがちな目録まで自筆で書く必要があったので改正で労力が大幅に緩和されることになります。
遺言書と言えば、自宅に保管された結果、紛失してしまうトラブルが多く発生していたのですが、改正後は法務局に自筆証明遺言を保管できるようになりますので紛失することもなくなります。
これまでは、公証役場で公証人の立ち合いのもとで公正証書遺言を作成していました。
この方法が、最も安全かつ確実なのは事実ですが、費用がかかります。
2,000万円の相続額でも、5万~10万円程度の手数料が必要です。
その点、今までより簡潔で、より安全な自筆証書遺言書の作成は、最終的に得になると言えます。
🌸コツ:相続法改正の施工時期
2019年7月までには、生前贈与を遺産分割から外せるようになります。
一方、配偶者居住権の設定は、その1年後の2020年7月までに施工とされています。
2020年に開催される東京オリンピックの時期に、不動産価格がピークを迎え、その後、下落基調をたどると考えた場合、新制度のうち施工時期の早い生前贈与を先にしておけば、比較的価格が高いうちに売却できるかもしれません。
それは、配偶者居住権より得をすることになります。
🌸まとめ
相続争いを防ぐには、透明性が大切です。
元気なうちに妻や子など相続人を集め、現在の財産がいくらあるのかをオープンにし、争いにならない遺言書を作成したうえ、法務局に預けることが最もお得な相続の方法です。
妻と家族を保護して損する相続を回避できるか…
新制度の隠されたコツを押さえつつ最も得する方法を選択して頂けたらと思います。
🌸あわせて読まれている関連記事
あなたの役に立ったらシェア!