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所有者(売主)に代わって裁判所の許可が必要な売却について

更新日2021-03-26 (金) 23:35:04 公開日2018年12月12日

不動産の所有者である親が認知症になってしまったとき親の介護のためにその不動産を売りたいと思っても売却するのは難しいということをご存知ですか!?

高齢化s

高齢化社会は、想像を上回るペースで進んでいます。
親や祖父母世代の人たちが長生きすることは、誰にとっても喜ばしいことであり、わが国が住みやすい社会である証とも言えるでしょう。
しかし、高齢化に伴って、解決すべき課題が山積みであることも事実です。

「一人で住まわせることは心配。でも、つきっきりで親の介護はできない」という人は少なくありません。
介護サービスを受けることもできますが、適用外のサービスを依頼しなければいけないことも多々あります。
もしくは、介護施設に入所させることも考えられるでしょう。

そうなると、やはりお金が必要になります。
そこで考えられるのが、親の家や土地を売ってお金を準備するということです。

ところが、程度の差はありますが「認知症の親の家を売ることは現実ではとても難しい」ことなのです。
かりに、子どもが親の家の権利証や実印を預かっていたとしても不動産の売買はできないと考えてください。

では、どうすればいいのか。
ここでは、認知症の親が所有する不動産の売却はなぜ難しいのか、またその不動産を売却するための方法について解説します。

★目 次★

この記事の内容を【動画】でご案内しています。


不動産の所有者が認知症の場合、なぜ不動産売却が難しいのか

認知症の親が所有する不動産を売却するのはなぜ難しいのでしょう。
それは、判断能力(意思能力)が十分でない所有者本人がおこなった法律行為は、手続き自体が法律上無効になってしまうからです。
仮に契約が成立したとしても、結果的に無効になるという判例も少なくありません。

通常、不動産を売却した場合、司法書士が所有権移転登記の手続き(登記手続き)をおこないます。

司法書士には、正当な契約であったのかを確認する義務があります。
そのため、登記手続きをおこなう前に、本人確認および意思確認をおこなって契約に有効性があるかを判断します。

そのとき、認知症によって本人の意思確認が十分にできない場合、司法書士は登記手続きをおこなうことはできないのです。

司法書士が、意思確認がとれたとすれば良いように思われるかもしれませんが、それは困難なことです。
なぜなら、もし後から所有者本人が認知症であったことが判明すれば、その売買契約は無効となり、司法書士はその責任を負うことになるためです。

そのため、認知症になってしまった親の不動産を売却したいのであれば、成年後見制度を利用することが必須になります。

成年後見制度について詳しく見てみましょう。

成年後見制度

認知症の親が所有する不動産を売却する方法として、「成年後見制度」があります。
この制度は、物事を判断する能力が十分でなくなった本人及び財産を保護するためのものです。

人は年を重ねれば、身体の状況に変化が生じるのは必定です。
物事を判断する能力が十分でなくなることもあるでしょう。
この状況を悪用し、高齢者の財産を狙った悪質な犯罪も増えてきました。

詐欺

騙されて不当に高額や商品購入の契約をしてしまうなどの危険性があります。
そういったことから本人を保護するために、本人に代わり法律行為を行うことができる受任者(成年後見人等)を選び、本人を保護するための活動を行わせるのが成年後見制度です。

成年後見人等の活動

財産管理

財産

・預貯金や現金の入出金管理
・不動産や車など資産の管理および処分
・税金の申告、納税
・年金などの申請や受取
・遺産分割

身上監護(監督・保護)

病院

・病院の手続き、支払い
・医療や福祉サービスに関する手続き
・住居の手続きや契約および支払い
・生活状況の定期的な確認

また、成年後見は「任意後見」と「法定後見」に分けられます。
それぞれについて説明します。

任意後見

任意後見

任意後見は、本人に判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分になったときに備えて、生活・看護・財産等の管理などに関する事務代理権と後見する人(任意後見人)を事前の契約によって決めておく制度です。

任意後見契約を結ぶことで、将来、本人の判断能力が低下したとしても、契約で定めた事務について任意後見人が本人の保護や支援のために、代理人として代理権を行使できるようになります。

任意後見制度を成立させるためには

任意後見制度を成立させるためには、本人と任意後見人との間で任意後見契約を結ぶ必要があります。(公正証書)

✿公正証書とは
元裁判官、元検察官、元法務局長など、法律実務を長く経験した人(公証人)が公証役場で作る文書です。
証拠として高い証明力があり紛失の心配がないなどの特徴があります。

任意後見制度の後見人にはどんな人がなるのか

特別に必要な資格などはなく、基本的に誰でもなることができます。
ただし、未成年者や破産者などは対象外です。

一般的には信頼できる親族や、弁護士、司法書士などの専門家が本人の意思によって専任されています。

法定後見制度

法定後見

「任意後見制度」が、本人の判断能力があるうちに、将来に備えて契約を結ぶことに対し、「法定後見制度」は本人の判断能力が十分でなくなった後で利用するものです。

法定後見は、判断能力の度合いで、「後見」・「保佐」・「補助」の3つの種類に分けられています。

後見

支援される人支援する人
成年被後見人成年後見人
判断がまったくできない、またはほとんどできない状態あらゆる行為について代理できる

保佐

支援される人支援する人
被保佐人保佐人
不動産や車など高価なものを買うのは少し心配と言う状態重要な行為について支援される人がしたことを取り消すことができる

補助

支援される人支援する人
被補助人補助人
初期の認知症の人。高価なものを買うときは誰かの補助があった方がいいと思われる状態高価なものを買うときのみなど、支援される人が範囲を決めることができる

法定後見制度を成立させるためには

申立人が家庭裁判所に法定後見の審判の申立てをおこない、家庭裁判所の審判が確定されることで保護が開始されます。

法定後見制度の後見人にはどんな人がなるのか

法定後見制度の場合、家庭裁判所が判断して最も適していると思われる人物を選任します。

法定後見人制度の特徴

法定後見制度は、本人に代わって法律行為を行う代理権だけでなく、本人の法律行為に対して同意を与える同意権と、本人の法律行為を取り消すことができる取消権が認められているという特徴があります。

任意後見制度と法定後見制度のまとめ

項目任意後見制度法定後見制度
受任者任意後見人成年後見人等
選任方法本人と受任者が契約家庭裁判所が選任
権限の種類代理権代理権・同意見・取消権
権限の範囲契約で定める法律と家庭裁判所が定める
手続きをする時期判断能力があるとき判断能力が低下したとき

成年後見申立てに必要な書類と費用

申立てに必要な書類は一般的には次の通りですが、ケースにより異なる場合があるため、事前に管轄の家庭裁判所に確認されてください。

後見開始申立書

記載内容:申立人の住所・氏名・職業・本人との関係・本人の本籍、住所、氏名および、申立ての理由・本人の生活状況など

申立付票(事の経緯を説明するもの)

申立書に関連する事柄について詳しく確認するための書類。
記載内容:裁判所との連絡方法・申立ての主な目的・本人の親族が申立てに賛成しているかどうか・本人の生活状況など

後見人等候補者身上書

後見人等の候補者の身上について記載する書類
記載内容:氏名・住所・本人との関係・職業・収入・経歴など

親族関係図

配偶者、父母、兄弟姉妹、子や孫などの本人の親族関係を記入する書類
記載内容:氏名・生年月日など

本人の財産目録

本人の財産を一覧で把握するための書類
記載内容:土地や建物などの不動産・現金・預貯金・債権・保険・株式・投資信託・住宅ローン等の負債など

本人の収支予定表

本人の年間の収入と支出の金額の予定表
記載内容:事業・年金・賃料などの収入・住宅費や光熱費などの日常生活費・税金や社会保険などの公租公課・債務弁済や扶養家族の生活費など

本人の健康診断書

本人の名義で主治医に作成してもらう診断書
診断書の記載内容:判断能力に影響する診断名や所見・認知症や脳の損傷などの各種検査の結果・判断能力についての医師の意見など

まだ成年後見等の登記がなされていないことの証明書

本人が成年後見等の対象として登記されていないことを証明する書類
一般的には東京法務局に郵送請求して入手します。

本人の財産等に関する資料

本人の財産である不動産、預貯金、株式、保険、収入、支出、負債などに関する資料になります。
(例)不動産全部事項証明書・預貯金通帳・株式の残高報告書・保険証書・年金額決定通知書・納税通知書・返済明細書など

その他必要書類

本人と後見人等候補者の戸籍謄本・後見人等候補者の住民票の写し・本人の健康状態についての資料(精神障害者手帳,身体障害者手帳,療育手帳)など

費用

収入印紙(3,200円程度)・郵便切手(3,700円程度)・鑑定費用(本人の鑑定が必要な場合、10万円程度)など
✿鑑定費用とは
本人の判断能力について医師の鑑定が必要と家庭裁判所が判断した場合に必要になる費用をいいます。


不動産の売却方法

ご案内してきたように「本人の意思確認が十分ではない」と判断された場合、不動産の売買契約は結べません。

成年後見人が売却することは可能ですが、このとき、家庭裁判所の許可を得ることが民法で定められています。
その理由は、成年後見制度の対象である本人を保護するためです。

また、売却予定の不動産が「居住用」か「非居住用」かによっていろいろと変わってきます。
ここからは、「居住用」と「非居住用」に分けて説明します。

居住用不動産の売却

無題 (3)

本人にとって居住用の不動産(家屋)は、生活するために非常に重要です。
その居住用の家屋を委任状などで勝手に処分(売却)されたら、どうなるでしょう。
当然、住む家がなくなります。
さらに認知症の人にとっては、居住環境が急激に変化することは認知症の進行原因になる可能性もあります。

先述したとおり、居住用不動産を売却するためには家庭裁判所の許可が必要ですが、仮に成年後見人が家庭裁判所の許可を得ずに居住用の不動産を売却してしまったらどうなるのでしょうか。

家庭裁判所の許可を得ることなく行った居住用不動産の売却は、無効(その法律行為がはじめから効果がないことを意味します)になります。

また、成年後見監督人が選任されている場合、居住用不動産を売却するには家庭裁判所の許可だけでなく、成年後見監督人の許可も得る必要があります。
✿成年後見監督人とは
成年後見人をサポートする立場にある人です。
主に家庭裁判所が必要と判断したときに選任されます。
一般的には弁護士が務めます。

ちなみに居住用不動産とは、現在住んでいる自宅だけではありません。
例えば、現在老人ホームに入居していても、将来その土地建物に戻って生活する可能性があれば、成年被後見人の居住用不動産となります。

居住用不動産売却の申請方法

居住用不動産売却の許可を得るためには、売却相手と売却金額が決まってから管轄の家庭裁判所に「居住用不動産処分許可申立書」を提出します。
申立書(2枚綴り)(Word:59KB)

必要書類

必要書類は、家庭裁判所によって異なる場合がありますが、一般的には次のとおりです。
・不動産の全部事項証明書
・不動産の売買契約書の案
・不動産の評価証明書
・不動産業者が作成した査定書
・本人または成年後見人の住所に変更がある場合、その者の住民票の写しまたは戸籍附票
・成年後見監督人がいる場合、その意見書
・800円程度の収入印紙や郵送用の郵便切手

許可を得るための重要な要素

・売却の必要性
・本人や親族の意向
・本人の帰宅先の確保
・本人の生活状況
・売却条件や金額
などがあげられます。

参考:横浜家庭裁判ホームページ

居住用不動産処分の許可の申立てについて(裁判所HPより)

居住用不動産処分の許可の申立てについて

成年後見人(保佐人,補助人)が,成年被後見人(被保佐人,被補助人)の居住用不動産を処分するには,事前に家庭裁判所に居住用不動産処分の許可の申立てをし,その許可を得る必要があります。
 (注) 保佐人(補助人)については,不動産処分の代理権が付与されている場合に限ります。


☛居住用不動産処分の許可の申立てについて【裁判所HP】

※この場合の居住用不動産とは、被後見人が、生活の本拠として現に居住の用に供している、または居住の用に供する予定がある建物及び敷地をいいます。

非居住用不動産の売却

正当な売却理由が必要

非居住用の不動産については、居住用不動産の場合とは異なり、不動産を売却するために家庭裁判所の許可を得る必要はありません。
ただし、非居住用不動産の売却には正当な理由(売却しなければいけない理由)が必要です。

家庭裁判所の許可は不要ですが、当然ですが、非居住用不動産を成年後見人が無制限に売却できるわけではありません。

正当な理由とは、たとえば、本人の生活費を確保するため、本人の医療費を捻出するためなど、本人のためになることがあげられます。
後見人や親族など、本人以外の人のために売却するということであれば、正当な理由にはなりません。

売却価格には注意が必要

売却価格についても注意が必要です。
もし、相場よりもかなり安い価格で不動産を売却した場合、本人のためにならないと家庭裁判所に判断される可能性があります。

家庭裁判所の許可が必要な処分行為

家庭裁判所の許可が必要な処分行為としては、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定の他、贈与や建物の取り壊しなどが含まれると考えられています。

家庭裁判所

まとめ

高齢化社会が深刻化している昨今、65歳以上の方の7人に1人が認知症を発症しているというデータもあるほど、認知症が身近な病気となっています。

判断能力が不十分になってしまうと、不動産売却などの法律行為が認められなくなってしまいますが日本の法律行為では、不動産の売却は所有者本人(登記上の名義人)がご自身で行う必要があります。

もし、ひとりで暮らしている親(所有者本人)が認知症を発症してしまい、どうしてもご自身で売却等の契約行為を行うことが出来ない状態にある場合は、成年後見制度を利用することになりますが、たとえ成年後見人であっても、居住用不動産の売却等は家庭裁判所の許可が必要となります。

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